「本と鍵の季節」米澤穂信・著

 高校生男子の図書委員二人が、駄弁りながら友情と推理を深めていく連作短編集です。舞台がら、本と図書室・図書館がネタになった編も多めです。

 割と常識的で善人、顔も体格も(ついでに名前も)平凡な堀川次郎(語り手)と、普通の学生から一歩踏み出したニヒルで格好いい松倉詩門、気は合いながらもサッパリとした交遊関係と、時にふざけあい時に互いに気をかける会話は、古典部シリーズの折木奉太郎福部里志のそれに通じるものがあり、それが好きな人にはお勧めです。

メモ

 本作は一編め「913」(タイトルは怪盗ルパンの「813」のもじり? 本家も暗号解読もの)が単独作として執筆された後、一年おきに二・三編目が出た。そしてそれから四年置いて、後半が雑誌と単行本で連続的に発表されるという流れである。

陰謀との距離

 五話(「昔話を聞かせておくれよ」と「友よ知るなかれ」は合せて一話と数える)全てに陰謀(陰ながらのはかりごと)が存在するのだが、二人と陰謀の距離がグラデーションになっているのは意図したものだろうか?

  1. 913 堀川が先輩の陰謀に引っ掛けられ、松倉がそこから救う
  2. ロックオンロッカー 二人は陰謀には関係ない。隠されたはかりごとの存在に気付いて傍観者になる話
  3. 金曜に彼は何をしたのか 松倉が陰謀が存在する可能性を指摘するが、堀川は悪意がないことを期待する
  4. ない本 前の話に似て、松倉が陰謀を指摘する。しかし、堀川は陰謀は認めつつもその悪意を否定する
  5. 友よ~ 「松倉が」堀川に陰謀を仕掛ける。堀川はそれに気づき、松倉が悪意を捨てるよう説得する