松尾由美先生の小説「スパイク」(単行本2002年刊)を読んでいて、いろいろと「九月の恋と出会うまで」(単行本2007年刊)の原型となっているのに気がついた。
共通する点は以下の通り。
- SF的な仕掛けがあること、また、それにより男女が出会うこと
前者ではパラレルワールド、後者では時間を超えたつながりとそれによるタイムパラドックス - 前項の仕掛けに関連する形で、意外なものが意志を持ち会話能力を得て主人公の相談相手となること
前者では飼い犬の「スパイク」が、世界の境界を越えた影響で。後者ではテディベアの「バンホー」に塗り替えられる前の歴史の残滓が宿る形で。付け加えれば、どちらも男性的な人格である。 - 鉄道がモチーフとなること
前者では(京王)井の頭線と小田急(小田原)線の交差が、後者では都営地下鉄大江戸線の6の字型の路線形状が取り上げられる
読書の紹介では1がまず触れられるが、これだけならよくある基本形である。肝心なのは2で、こうやって人間ならぬ相談相手が登場することが松尾由美らしさなのだと思う。
とはいえ違うところも多々あり、肝心なのは話の構造だろう。前者では「一目ぼれ」でありそのこと自体が実は謎の一つとなっているが、後者では仕掛けによって生まれた触れ合いで次第に惹かれて恋愛が徐々に生長する形となっている。