「異形コレクション・綺賓館」に見る雪女と人魚の呼称

 「SEA-WYF雑感」の記事で人魚という言葉にバリエーションがないのでは、と述べた。

 ここに、現代日本の代表的な怪異譚のアンソロジーに「異形コレクション・綺賓館」がある。生き延びた古典と現代の新作を織り交ぜた編集方針からも、雪女と人魚がどのように呼ばれているか、概観するにはよいサンプルだと私は考えた。

 結果としては、確かに人魚という言葉にはバリエーションが外来語のマーメイドぐらいしかないと分かった。とはいえ、雪女のバリエーションの意外な少なさにも驚いたが。

雪女のキス(2000年発行)

 古典的な、雪の性質を帯びた美女の怪のみを対象とする。典型から外れたものには×印を付す。

  • 雪色の怪談 雪おんな(小泉八雲平井呈一訳)-雪おんな
  • 空知川の雪おんな(坪谷京子)-雪おんな(本文には呼称登場せず)
  • 妖婆(岡本綺堂)-×、妖婆・鬼婆・雪女郎
  • 幻に吹雪く 雪女(山田風太郎)-雪女
  • 雪女郎(皆川博子)-雪女郎
  • 雪女臈(竹田真砂子)-雪女臈(タイトル)・雪女(本文)
  • 雪おんな(高木彬光)-×雪おんな(「のっぺらぼう」の変種)
  • 街を凍らせる バスタブの湯(中井紀夫)-呼称登場せず
  • コールドルーム(森真沙子)-呼称登場せず
  • 戻って来る女(新津きよみ)-呼称登場せず
  • 都会の雪女(吉行淳之介)-雪女
  • 涼しいのがお好き?(久美沙織)-雪女
  • 冷蔵庫の中で(矢崎存美)-呼称登場せず
  • 紅い雪・蒼い雪 雪女(赤川次郎)-雪女
  • 深い窓(安土萌)-呼称登場せず
  • 雪うぶめ(阿刀田高)-×、「雪うぶめ」は名称ではなく、「うぶめ」に形容を付したもの
  • 白雪姫(井上雅彦)-呼称登場せず
  • ゆきおんな(藤川桂介)-雪女
  • 雪女のできるまで(菊地秀行)-呼称登場せず
  • 雪色の物語 雪音(菅浩江)-呼称登場せず
  • 雪ン子(宮部みゆき)-×、雪ン子
  • 雪(加門七海)-雪女

人魚の血(2001年発行)

 古典的な、美女の半人半魚のみを対象とする。典型から外れたものには×印を付す。また、海外を舞台とし設定上日本語で会話していないものには△を付す。