バレンタイン

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 バレンタインでももこさんから頂いて(http://yaplog.jp/pikacyu64/archive/347) 、せっかくなので何か話をつけたいな、と思ったけどうまくまとまらないので、とりあえずネタ書きだけ。そのうち仕立てよう。
 あの世界にチョコとかバレンタインデーとかあるんだろうか、と考えてると話が進まないので、もしあったら……という番外編と見て下さい。

 まあ、あんなモンスターだらけの世界ですから、ロトの子孫たちはまず旅人としてだけでも、そんな世界を旅できる強者でしかも他所の話を知っているということで人気者だと思うのです。おまけにデルコンダルのコロシアムで勝利したり、脱獄囚ラゴスを捕まえたりと、評判が上がる要素にはことかかない。
 だから、バレンタインデーともなれば彼らの船の周りは若い女の子でいっぱいになると思うのです。とはいえ、必ずしも直接渡せるとは限らないので船員に預かってもらったりする人もいるでしょう(これが学園モノでいうところの下駄箱代わり、と)。
 しかし、我らがリュオさんはそれすらも躊躇って波止場の倉庫の陰でうじうじしていたりする。そもそも人間でない自分が渡してもいいのだろうか、なぜ自分は竜の血を引いているのだろうか、だいたい仇の子孫に思いをもつなんてヘンじゃなかろうか、などと。
 その後ろに現れたのは……。

'10/3/15追記(ホワイトデーにはちょっと遅れてしまったい!)
 「どうしたものじゃろう……」
 リュオは、手の中にあるものに目をやって、何度となく繰り返してきた言葉をまたつぶやいた。
 リュオの繊細な両手の中で、黒茶色で命の紋章の形をしたものが、甘い芳香をかすかに漂わせていた。

 どうしてこんな羽目になってしまったのじゃろう? リュオはここ数日のことを思い返した。
 そもそもは、市場で掛けられた一言だった。ロトの子孫の勇者たち(近頃は、彼らの勇名もずいぶんと広まって来た)の何度目かの来訪が近いことを察したリュオは、彼らを歓迎するために王都ラダトームの市場へ買い出しに出かけたのであった。「紋章」もほとんどが揃い、いよいよ悪の首魁・大神官ハーゴンのもとへと乗り込む日も近いことを知るリュオとしては、精一杯のもてなしをするつもりであった。
 そうして気合満々で市場に突撃したリュオにとって、その言葉は「痛恨の一撃」であった。
 「そこの娘さん、どうだい?」
 冬場ともあって厚着をし、いつもの青い頭巾をよりきつめに巻きつけた自分に対して、その店主がなぜ「娘さん」と呼びかけたのかリュオには今でも不思議であった。さすがに男女の別は分かるにしろ、年頃などさっぱりわからないであろうに。
 首だけ振り返らせると、焦げっぽいようないい香りが鼻をくすぐった。店先には、茶色の豆のような実に、それを挽いた粉や実から取り出された白い脂が並んでいた。
 「うまそうなチョコレイトじゃな」
 「そうそう」店主が、我が意を得たとばかりにうむうむとうなずいた。「魔物どもがどんどん出るようになるだろ? デルコンダルからの船は港に入らないし、今年はカカオ豆が手に入らないかと思ったよ」
 「デルコンダルとな?」
 「おや、知ってる? そう、勇者様たちがデルコンダルのコロシアムで活躍した話、その勇者様たちがその時にカカオを持ってきてくれたというわけさ」
 「ほお……」思わず、リュオの脳裏に彼らの雄姿が浮かんだ。
 「お、娘さん、いま好きな人のこと思い浮かべただろ」
 「な、なにを言うのじゃ!」
 リュオははっと頬を押えて、顔をおおう頭巾をしていたことを思い出して安堵した。赤く染まった頬など見られたら、もう二度とこの都にはこれないだろう。
 「と、いうわけで買わないかい? バレンタインの日はすぐそこだよ?」
 「誰がじゃ! わ、儂に好きな殿方なぞおるわけなかろう!」
 「いやいやいやお嬢さんそれは古い。日ごろ感謝している方に贈ってもよろしいですよ?」
 「そ、そうじゃろうか……、しかし主人、ちと高いのではないじゃろうか?」
 「それはこのご時世ですから。しかし、ここは値引きまして……」

 そして、バレンタインの当日がやってきた。
 ちょうど三人の勇者たちはラダトームに入港していたが、補給のため竜王の城を訪れるのは少し先になりそうであった。

 あの人の、喜ぶ顔が早く見たい。波止場の隅に小舟を泊めると、リュオは大型船の桟橋へと急いだ。勇者たちの船は次の角だ。リュオはそこで足を止めると、一息ついた。さて、何と言って渡したものか。いろいろと言い訳を考えつつ、リュオは物陰から勇者たちの船をのぞきこんだ。
 「あ……」
 そこには人混みができていた。ラダトームじゅうから、入れ替わり立ち替わり、幼い少女から中年の婦人まで、下町の小娘から王宮の女官までが船に贈り物を届けに来ていた。彼らはちょうど出払っているらしく、船乗りたちが代わりに受け取っている。
 「儂なぞ……」
 リュオの目には、着飾って和気あいあいと勇者たちのことを語る女たちのいずれもその贈り物も光り輝いて見えた。
 そこに、わーっと歓声が聞こえた。勇者たちが戻って来たらしい。少し前ならぱっと見知らぬ船員に渡して帰ることもできたかもしれないが、人だかりができた中に入って行く勇気などリュオにはなかった。
 「……帰るのじゃ」
 リュオは、ふらりと踵を返した。早く帰らないと、人の光に包まれた彼らと、闇に籠る自分との差がいよいよ思い知らされそうであった。ラダトームまで足を運んだことは心にしまっておこう。
 「リュオさん?」
 その後ろから、声が掛けられた。
 そんなはずは……はるか後ろからは、まだ勇者たちを称える歓声が聞こえてくる。こんなところにいるはずがない。リュオは振り向くことも、足を進めることも、返答することもできず立ちすくんだ。
 「リュオさん!」
 その人物が前に回り込んできた。緑色の服を頭からすっぽりと包んだその姿は、長身とあいまってまるで案山子のように見えて、リュオは思わず笑いをこぼした。
 「そんなにおかしいですか?」
 人物が頭巾をとると、サマルトリアのサスケの白皙な顔が現れた。
 「騒ぎをかわす時には便利なんですよ、この身かわしの服というものは」
 「すまぬのじゃ。これはお詫びじゃ」
 リュオはすかさずチョコレートを手渡した。ちょっと目を丸くしながらも、サスケはそつなく受け取った。
 「ありがとうございます。……でも、ちょっと大きいですね。どうです、二人で食べるというのは。いい眺めの灯台がこの近くにあるんですよ」
 「でも、ロウガ殿とムラサキ殿のことはいいのじゃろうか?」リュオは騒ぎの方を見やった。
 「いいんですよ。たまにはあの二人にも頑張ってもらわねば」そう言い放つと、サスケはにこりと笑ってリュオの手をとった。


旧コメント

ホワイトデイに相応しい演出だーーー!!
この二人には波風立たせずストレートに幸せになってもらいたいですね^^
余談で申し訳ございませんが…
リュオさんのセリフが脳内で岡山弁に聞こえるのは私が岡山県人だからでしょうかww
2010/3/15(月) 午後 8:21 [ ももこ ]

いやー、サスケはアレフガルドあたりのいいとこのお嬢さんと結婚させる予定となっています。

>岡山弁
って? イメージ付かない……。
2010/3/16(火) 午後 7:40 [ 竜王五代の人 ]

うわ、リュオさん可哀そう><
リュオさんはどうなるの!?
サスケとはお友達で?
しかしその辺の件も拝見したいです!!

>>岡山弁
日常会話で語尾に「じゃ」がつきますww
脳内変換時「お国言葉」にならないよう気をつけます(><;)
しかしリュオさんが話していると思うと可愛く聞こえる~^^
2010/3/17(水) 午前 0:04 [ ももこ ]