「さて、」ぱんぱんと手を叩いて場を区切ると、ムラサキはずずいっとリュオに顔を寄せた。そうすると、遠目には秀麗に見えたその顔も、長い征旅の疲れか、いくぶん頬がこけ顔色も冴えないのが明らかになった。しかし、目には火口の中の溶岩のように爛々と光があった。「紋章は揃えてきたわよ。さ、精霊ルビスを呼んでくれる?」
突然の話に、リュオは目を白黒させた。
「あ、えと……その、紋章は城に……」
口ごもるリュオに、ムラサキがキッと目を釣り上げた。
「何よ! 何してるの! あんたノンビリしてたくせに! あたしたちがどんだけ回り道してどんだけ時間かけてこの板きれを集めてきたか分かってんの!」
ムラサキの、火が付きそうなほどきつい目線と、
「ま、まぁまぁ」
サスケはリュオの細い胴に安心させるように腕を回すと、年上の親戚に声をかけた。
「なんだっていうのよ!」
ムラサキの刺すような視線が向けられても、サスケはにこやかな笑みを崩さなかった。
「ムラサキ、こんなところでリュオさんに出会うなんて、私たちも彼女の方も思ってもみなかったことです。それに、今日はもともと次の冒険の準備をする予定だったでしょう?」
「う……」
ムラサキはなおもサスケを睨みつけていたが、サスケの方もまるで空から光差す太陽のように笑いかけ続けた。
「……そうね、ちょっと焦ってたみたい」ふ、とムラサキが視線を外すと、自分を納得させるかのようにつぶやいた。「さき行くわ」とぼとぼと歩きだすムラサキの後を、今まで小さくなっていたロウガがついていく。
二人きりで残されて、やっと落ち着きを取り戻したリュオは、サスケと抱き合う形になっていたことに気付いて慌てて一歩距離をとった。
「サスケ殿、助かったのじゃ」感謝の言葉とともに、リュオが大きく安堵のため息をついた。
「いえいえ、こちらこそ済みません」サスケもそう言うと、二人の親戚が去った方に目をやった。「できれば少しご一緒に、と思ったのですが」
「仕方ないのじゃ」何が仕方がないのか、二人とも分かっていた。
「それでは儂は城で待つのじゃ。早く来るのじゃぞ」
「ええ」
サスケは、リュオがとりおとした手籠を拾い上げて手渡すと、仲間二人を追って去って行った。
その次第に小さくなっていく背を見守るリュオの背後に、人影が差した。
びくりと振り返ったリュオの目に、中年男の渋い顔が映った。「ねえさん、済まないが……」先ほどの果物売りの男であった。
「そ、そうじゃった!」
リュオの籠は、随分と重くなってしまった。
隠しあとがき
おかしい、最初は
リュオ「どこいくのじゃ?」
サスケ「服屋に。一緒に来ますか?」
リュオ「行くのじゃ!」
……
サスケ「どうです、いいものありますか?」
リュオ「うーん(お金が……)」
サスケ「買ってあげましょうか? ハーゴン相手にお金が利くとも思えませんし、あったところで……」
ムラサキ「冗談じゃないわよ! ムーンブルク復興にはいくらあっても足らないんだから。余ってるならあたしに渡しなさい!」
という構想だったのになぁ。どうしてこうなった?