竜王のひ孫、リュオの勧めにしたがって「メルキドの南」を目指したロトの子孫一行。彼らはそこにそびえていた大灯台で、星の紋章を入手したのち、再び竜王の城へと戻ろうとしていた。
「よく来たのじゃ!」
地底にありながら外界のように明るい竜王宮殿、その外にまで出て待っていたのは竜王のひ孫・リュオだった。角のある兜に青い長衣の衣装は以前と変わらないが、最初の出会いのときの話が効いたのか仮面ではなく白いベールで顔を隠している。
「紋章も手に入れたようじゃな。儂にも見せてたもれ」
そんなリュオに、ムーンブルクのムラサキがあきれた様にローレシアのロウガの耳にささやいた。
「ワンコみたいなやつね……」
ロウガが微妙な目でムラサキを見返す。ムラサキも少し前まで犬に化けさせられていたから同類みたいなものじゃないか、と思ったようだ。
「まあまあ、お土産は後ですよ。まずは休ませてください」
「それもそうじゃな」
如才なくサマルトリアのサスケが応対すると、リュオは先頭に立って一行を案内し始めた。
一行がわざわざ戻ってきた理由は二つあった。
まず一つは、大灯台で彼らは人に化けた魔物に案内されるふりで罠にかけられたが、魔物を白状させる前に倒してしまったため黒幕が誰か分からなくなってしまった。彼らを大灯台へ向かうよう仕向けたのがリュオである以上、疑惑は彼女にも向けられたのだが、この無邪気な態度を見ているととても疑い続けることはできそうになかった。
そしてもう一つは……。
一行は焼きたての菓子をほおばりながら、星の紋章を手に入れるまでを語った。リュオは大きな眼を輝かせて話に耳を傾けている。
「……さて、リュオさん」一通り話し終わったサスケが、リュオに尋ねかけた。
「貴女はわれわれの動きも紋章の場所も分かるようですが」確かにそうでなければこうタイミングよく客を迎えることはできないだろうし、紋章を持っていることが分かることもなかったろう。「他の紋章の場所は分かりませんか?」
だが、リュオは顔を曇らせた。
「それは、難しいのじゃ……じゃが、サスケ殿の頼み、努力してみるのじゃ」
リュオはすっと立ち上がった。
「よいか? しばらくここで待つのじゃ。儂が何をするか、けっして聞いては駄目じゃぞ」
そう言い残して、リュオは屋敷の奥へと姿を消した。
「何、するつもりかしら?」ムラサキが何気なくつぶやく。
「ん?」ロウガが首を傾げる。「歌、聞こえないか?」
幾重もの壁を通して、銀鈴を振るようなかすかな歌声が聞こえたような気がした。だが、それは別な音にかき消された。リュオに見せるためテーブルの上に置かれてあった星の紋章が音を出し始めていた。
「え、ちょっと?」
「どうなっているんだ?」
星の紋章の振動、それは歌に違いなかった。
だが、その響きはパタリと途絶えた。少しして、リュオが再び姿を見せた。
「駄目じゃ……」肩を落としている。「紋章は、精霊の歌声に答えて山彦を返すのじゃ。それを聞こうとしたのじゃが、これがうるさ過ぎて……」指差す先にある星の紋章。
「ふーむ」サスケが腕組みした。
(申し訳ありませんが、放棄しました)