亡父の日

 その日、竜王のひ孫・リュオは朝起きると、真っ先に暦を確認して、一人うなづいた。
 リュオは身支度を整えて台所へ向かうと、小麦粉をふるったものに卵などを混ぜ、柄付きの平鍋で焼き始めた。ほどなく、小麦粉の焦げるいい匂いとともに、きつね色に焼けた円盤型の焼き菓子が姿を現した。リュオは一人で食するには少し多いほどいくつも焼くと、ナイフとフォークをふるって小皿に取り分けた。
 取り分けた焼き菓子を盆に盛ると、リュオはそれを持って歩き出した。しかし、向かう先は食堂ではなかった。屋敷の奥まった方へとリュオは向う。重厚な扉を開けると、前脚を振り上げた巨竜がリュオを見下ろしていた。その左右に侍るのは、竜・甲冑武者・岩巨人・大魔道師といったいずれ劣らぬ猛者たちであり、この一大軍団がリュオ一人を威圧するように身じろぎ一つせず視線を向けていた。
 しかし、リュオは臆さず一礼すると、部屋の中に入った。入って近くで見れば、灰色の硬い肌をした彼らの皆がまぎれもなく石像であることがわかった。リュオはまず中央に王のように座する巨竜に焼き菓子を一皿供えた。他の石像にも一皿一皿供えていく。リュオが最後に足を止めたのは、中央の巨竜とは比較にもならないほど小さな一匹の竜の前だった。しかし、体つきや顔つきはどこか巨竜に似たものを感じさせる。よく見ると、他の魔物たちとは違ってこの竜だけが宝箱のようなものを体の前に持っている。リュオは、その像の前に、他よりはいくぶん多く盛られた皿を供えて、改めて一礼した。
 「お父さま、お父さまのお好きなものです。召し上がってください」
 


 
 イメージスケッチです。
亡父の月命日か何かに、霊廟に好物(というか、シンプルな主食のイメージ、仏壇に供える白ご飯の代わり)のパンケーキを供えに来たところを書いたつもりです。たぶんこのあとロトの子孫三人とのことがらとかを語りかけるのでしょう。
 実は、ももこさんの描いていた父の日四人娘を見ていて、この子たち誰も父親居ないんだな、と考えたら閃いたものです。