「リュオさんネコになる」その6

 リュオが広間にお茶を持って入ると、中では3人が楽しそうに歓談していた。主に騒いでいるのはロウガで、どうもロンワンの冗談がツボにはまったらしい。
 そういうわけで、最初にリュオに気づいて顔を向けたのはムラサキだった。彼女は特に口は開かなかったが、その注視する目が「サスケと何があったのかしら」と尋ねているようで、顔がほおっと熱くなるのをリュオは押えられなかった。
 すぐに他の二人もリュオに気づいた。
 「どうだった?」
 遠慮なく尋ねてくるロウガ、だらしなく細めた目で見てくるロンワン、澄ました顔をしながらしっかり耳は向けているムラサキ。口を利けないリュオは、笑ってごまかしながら無造作にお茶に口を付けた。
 「ふぎゃん!」
 舌の先が火で焙られたかのような痛みに、リュオは悲鳴を上げた。
 「はふはふはふ~~~」
 口を開いて舌を突き出し少しでも冷やそうとする。
 「だいじょぶ?」「どうしたの?」
 ムラサキとロウガが駆け寄る。一歩出遅れたロンワンは、確かめるように茶を啜って首をひねった。「熱くはないが……」
 そう言われても、熱いものは熱い。リュオは涙のにじむ目でロンワンを睨んだ。
 「薬草?」
 「冷やしとけば大丈夫よ」
 ヴヴヴ~。冷静なムラサキの態度に、リュオは舌をくわえながら抗議の唸りをあげた。
 「なるほど、猫舌だな」ロンワンが冷静に分析する。
 「お待たせしました」
 そこに、サスケが土ぼこりを払いつつ現れた。思わずリュオは駆け足でサスケにすり寄り腕の間に収まると、3人がいかにひどいか訴えかけようとした。
 「ふにー、みんにゃ、ひどいのにゃ」
 「あれ?」サスケが目を丸くする。「リュオさん、話ができるようになったんですか?」
 「あ、あ、あー。どうしたのにゃ? 話せるのじゃ」
 リュオも、驚きに自分の喉に手を当てつつ確かめた。
 「治療することは『手当て』と言うだろう? 接触で治るのは想定内だよ」
 ロンワンが知ったような顔で解説する。しかし、それで納得しているのは単純なロウガくらいであった。見上げると、サスケもちょっと微妙な顔をしている。分かってたなら早く言ってほしかったのじゃ。リュオはすぐさまロンワンのところへ抗議しに行きたかった。だが……
 「今度は完治するように、しっかり抱きしめられておいた方がいいのではないですか?」
 胴に回されたサスケの腕に力がこもる。そうされると、文句もしずらくなってしまうのだった。