神々と勇者たち

 四訪竜王城(その3)で止められていなかったら、ムラサキが精霊ルビスに叩きつけようとしていた内容についての番外編です。

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 「なぜ、神はムーンブルクを救ってくれなかったの? 神はどこにいるっていうの?」
 激昂したムラサキの怒声が響く。
 「いや、それは思い違いというものじゃ」リュオは、神に代わって弁解した。「ムラサキ殿、そなたは自らの力のみでハーゴンに立ち向かっておるとおもっておるじゃろ?」
 「そのとおりじゃないの! 誰も助けてくれない!」
 「まあまあ」ムラサキが怒鳴りつづけようとするのをサスケがなだめた。「リュオさん、続けて下さい」
 「聞いてほしいのじゃ。……ムラサキ殿、そなたも毎日食べ物を食べておるじゃろ?」
 「当り前じゃない」
 「その食べ物はどうやってできるというのじゃ? 日の光、天からの雨、土の恵み、そして耕す人の支えあってのものじゃ。天の神様と精霊ルビス様は、そなたに届くように全てを整えて下さっておる。
 そもそも、そなたの足の踏む大地、それを創られたのはルビス様じゃ。
 ムラサキ殿、そなたがここにおってこうして戦っていられる、それこそが神様とルビス様の賜物なのじゃ」
 「そんなものかしら」

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 早川文庫の古いファンタジー小説、リフトウォー・サーガの「セサノンの暗黒」では、若い魔法使いパグと老賢者マクロスが以下のような会話を交わします。

 パグが尋ねた。「では、神々はどうして行動しなかったんですか?」
 マクロスは苦しげに笑い、自分たち四人を手振りで示した。「わしら(傍点あり)はここで何をしておると思うかね? ゲームなのじゃよ。わしらは駒なのじゃ」

 この小説はもともとTRPGを小説に起こしたようなところがあるのですが、ここで提起された、神話級の巨悪に対して正義の神はなぜ自ら動かず人間である主人公たちが努力せねばいけないのか、という問いとその答えに対するしこりを私なりに納得しようとしてみたものですが、リュオに代弁させたこの答え、どうも優等生的過ぎる気もします。