並べてあげてくれるな――松尾由美と倉知淳

 東京創元社が推理作家を集めて、それぞれがデビューしたころの思い出をエッセイにしてもらって、それをデビュー年順で並べた「わたしがデビューしたころ」という本がある。そこでは、1991年の松尾由美先生と、1993年の三人のうち倉知淳先生が隣り合っている。

 この二人、デビューした年代もそうだが、年回りも(’60年と’62年)、年一冊前後という比較的寡作なところも、それでも作家生活を長年続けてきたところも似通っている。

 だがデビューの経緯が対照的である。「五十円玉二十枚の謎」という読者応募企画から名編集者戸川安宣氏に引き上げられ、本人曰く「作家志望だったわけでもない」のに「ぬるっと」ミステリ作家になってしまったのが倉知淳先生である。

 それに対し作家になりたかったのが松尾由美先生。ファンジンから雑誌掲載、書籍発刊へとぬるっと作家になりかけて、引き立ててくれた出版社がコケたことで息が続かず、コンテスト応募から出直した(本人曰く、「三度目の正直?」)努力の人である。

 そうやって頑張った松尾先生のあとが、倉知先生である。東京創元社も、並べてあげてくれないで、と思ってしまう一冊であった。