「どうしてムラサキ殿となかよくできないのじゃろ……」
机に顔を伏して一人悩んでいた、竜王のひ孫・リュオの背後で、突然、空気が揺らめいた。隙間風もないのに空気が渦を巻いて明滅したかと思うと、中から、長い黒髪を後ろに撫で付け青いジャケツを着た洒落めかした中年男が現れた。この男、ロンワンといい、リュオと同じ竜王のひ孫である。ただし、別世界のである。
人の気配に振り向いたリュオに、ロンワンはにこやかに笑いかけると、芝居めかした裏声で話しかけた。
「『涙を隠しても私にはわかります。
ひーっ 魔物だわ! さらわれてしまうわ!』」
「な、なんのつもりじゃ! 変な声だしおって。泣いてなぞおらぬぞ」そう口ではいいつつも、リュオの手は目じりを拭っていた。
「まあ、そういうことにしておきますか」
「含み笑いはやめるのじゃ!
で、いったい突然あらわれて、何の用じゃ?」
ロンワンは相変わらずへらへら笑いながら、リュオの顔に視点を合わせた。
「いやぁ、何かお困りじゃないかと」
「困ってなどおらぬのじゃ! 儂と貴様が、その、い……い……」
「異世界同位体」
「そう、その『いなんとか』じゃから分かるなどというたわ言はなしじゃ!」リュオはきっぱりと宣言した。
「そうですか」ロンワンはリュオに半分背を向けて、自分が出てきた渦紋(ロンワン曰く「即席旅の扉」)を見やると、独り言のようにつぶやいた。
「……思うにですね、魔物でないと証明できないのが問題じゃないかと」
小さな声だったが、リュオの鋭い耳は確かにその声を捉えた。
「それじゃ!」
リュオの上げた声にまるで気付いていないかのように、ロンワンは淡々と話し続ける。
「ダーマ神殿で使われていたと言う、職業を見分ける衣装を手に入れて……おおっと」
ロンワンがわざとらしくつまづくと、その手から濃い桃色の布切れがぱさっと落ちた。つまづいたロンワンはとっとっとその勢いで渦巻きの向こうに消え、あとには床の落としものだけが残された。
渦巻きが消え空気が元通り澄み渡るのを待ちかねたように、リュオは桃色の落としものに飛び付いた。紙片も一枚付いている。ご丁寧な事に、説明書であった。
「なになに、着用者の職業に合わせて変形する服? ふむ?」
机に顔を伏して一人悩んでいた、竜王のひ孫・リュオの背後で、突然、空気が揺らめいた。隙間風もないのに空気が渦を巻いて明滅したかと思うと、中から、長い黒髪を後ろに撫で付け青いジャケツを着た洒落めかした中年男が現れた。この男、ロンワンといい、リュオと同じ竜王のひ孫である。ただし、別世界のである。
人の気配に振り向いたリュオに、ロンワンはにこやかに笑いかけると、芝居めかした裏声で話しかけた。
「『涙を隠しても私にはわかります。
ひーっ 魔物だわ! さらわれてしまうわ!』」
「な、なんのつもりじゃ! 変な声だしおって。泣いてなぞおらぬぞ」そう口ではいいつつも、リュオの手は目じりを拭っていた。
「まあ、そういうことにしておきますか」
「含み笑いはやめるのじゃ!
で、いったい突然あらわれて、何の用じゃ?」
ロンワンは相変わらずへらへら笑いながら、リュオの顔に視点を合わせた。
「いやぁ、何かお困りじゃないかと」
「困ってなどおらぬのじゃ! 儂と貴様が、その、い……い……」
「異世界同位体」
「そう、その『いなんとか』じゃから分かるなどというたわ言はなしじゃ!」リュオはきっぱりと宣言した。
「そうですか」ロンワンはリュオに半分背を向けて、自分が出てきた渦紋(ロンワン曰く「即席旅の扉」)を見やると、独り言のようにつぶやいた。
「……思うにですね、魔物でないと証明できないのが問題じゃないかと」
小さな声だったが、リュオの鋭い耳は確かにその声を捉えた。
「それじゃ!」
リュオの上げた声にまるで気付いていないかのように、ロンワンは淡々と話し続ける。
「ダーマ神殿で使われていたと言う、職業を見分ける衣装を手に入れて……おおっと」
ロンワンがわざとらしくつまづくと、その手から濃い桃色の布切れがぱさっと落ちた。つまづいたロンワンはとっとっとその勢いで渦巻きの向こうに消え、あとには床の落としものだけが残された。
渦巻きが消え空気が元通り澄み渡るのを待ちかねたように、リュオは桃色の落としものに飛び付いた。紙片も一枚付いている。ご丁寧な事に、説明書であった。
「なになに、着用者の職業に合わせて変形する服? ふむ?」
「ムラサキ殿、ムラサキ殿」
名前を呼ばれて、ムーンブルクのムラサキは振り向いた。見ると、リュオが、まだ暑いと言うのに、脚まで届く長い外套を寄せ合わせて立っていた。案の定顔を赤らめている。
「何のつもり?」
「見てほしいのじゃ!」
「いいけど」
何を見せるつもりなのだろう? 小首をかしげるムラサキの手をリュオが引っ張った。どういうわけか、サマルトリアのサスケやローレシアのロウガには見せたくないらしい。
別の部屋に移って二人きりになると、リュオが腕を広げた。ばさり、と音を立てて外套が足元に滑り落ちた。その下から現れたのは、リュオの瑞々しく豊かでどこをつついても甘く弾けそうな、果実のような肢体と、その肢体の一番豊かな部分だけをわずかに隠す紫色の服のようなものだった。
「どうじゃ!」
「ふう~ん、『あぶない水着』ね。紫色のってことは、あんた勇者だったの」
「あ、あぶない水着? そっ、それは置いといて……
そうじゃ、儂は勇者だったのじゃ! 驚くのじゃ!」
自信満々のリュオに、ムラサキは冷ややかな一言で返した。
「魔物にだって、勇者はいるんじゃないの? 6とやらとか、プチなんとかとか」
自信たっぷりだったリュオの顔が、そのまま崩れて泣き顔になった。
「うわーん」
リュオは、逃げ出した。
呆れて開きっぱなしの戸を見やるムラサキの耳に、サスケが上げた驚きと戸惑いの声と、リュオの泣き寄る声が聞こえてきた。
名前を呼ばれて、ムーンブルクのムラサキは振り向いた。見ると、リュオが、まだ暑いと言うのに、脚まで届く長い外套を寄せ合わせて立っていた。案の定顔を赤らめている。
「何のつもり?」
「見てほしいのじゃ!」
「いいけど」
何を見せるつもりなのだろう? 小首をかしげるムラサキの手をリュオが引っ張った。どういうわけか、サマルトリアのサスケやローレシアのロウガには見せたくないらしい。
別の部屋に移って二人きりになると、リュオが腕を広げた。ばさり、と音を立てて外套が足元に滑り落ちた。その下から現れたのは、リュオの瑞々しく豊かでどこをつついても甘く弾けそうな、果実のような肢体と、その肢体の一番豊かな部分だけをわずかに隠す紫色の服のようなものだった。
「どうじゃ!」
「ふう~ん、『あぶない水着』ね。紫色のってことは、あんた勇者だったの」
「あ、あぶない水着? そっ、それは置いといて……
そうじゃ、儂は勇者だったのじゃ! 驚くのじゃ!」
自信満々のリュオに、ムラサキは冷ややかな一言で返した。
「魔物にだって、勇者はいるんじゃないの? 6とやらとか、プチなんとかとか」
自信たっぷりだったリュオの顔が、そのまま崩れて泣き顔になった。
「うわーん」
リュオは、逃げ出した。
呆れて開きっぱなしの戸を見やるムラサキの耳に、サスケが上げた驚きと戸惑いの声と、リュオの泣き寄る声が聞こえてきた。
自分のイラストに自分でインスパイアされるのは初めてだ。
なお、ダーマ神殿の下りはロンワンのフカシです。「6とやら」はDQ6で仲間モンスターも勇者に転職できることを、、「プチなんとか」はモンスターであるプチット族の勇者「プチヒーロー」を指しています。