帰ってきたお兄ちゃん

 お兄ちゃんが帰ってくる、それも悪の大神官ハーゴンを討ち果たしての堂々の凱旋だという、お兄ちゃんたち(親戚なローレシアの人とムーンブルクの人が一緒に戦ったのだ。わたしもついて行きたかった)よりも一足先に着いた飛伝*1からの知らせに、王様であるお父様も、お母様も、お城のみんなも感激していたけど、わたしは驚かなかった。お兄ちゃんならそのくらいできて当たり前だ。

 それにしても、使命を果たしたのになぜお兄ちゃんはとっとと帰ってこないのだろう? 飛伝が速いのは飛行の呪文「ルーラ」の稀な使い手だからだけど、その程度の呪文、お兄ちゃんだって心得ている。道々の者どもに姿を見せて、平和が戻ってきたことを広め伝えるのも勇者としての大事な務めだと言われたけど、まずは戻ってきてわたしたちに凱旋報告をしてから、ゆっくり回ってもいいじゃないか、とわたしは思う。もちろんその時はわたしも一緒に。

 もしかして、お兄ちゃんは、帰りたいとはあまり思ってはいないのだろうか。そんなはずはないのだけれど。


 お兄ちゃんたちが帰ってくるのが、お城の高殿の上から見えた。サマルトリアじゅうから来たような、歓迎に集まったものすごい人だかりの中を、お兄ちゃんたちがゆっくりと歩いてくる。先頭に立つすらりと背の高い人。一人一人に優雅に丁寧に会釈している、陽の光に輝く、わたしと同じ金色の髪に、ゆったりした緑色の服の人はお兄ちゃんだ! 無理に押しのけたりはしていないのに、自然と人たちの間に分け入って、後ろのお供たちのために道を作っているのがすごい。その後ろ、重そうな青い鎧を着ているのに、平気で大股で嬉しそうに歩いているのはローレシアの人だ。時折片腕に備えた「サマルトリアの盾*2」を高く掲げて、歓声を浴びている。一番後ろで、さざめき煌めく上掛けを着て、杖を片手にした魔術師風の綺麗な女の人はムーンブルクの人だ。

 そして、もう一人、勇者の三人から少し離れてついてきている人がいるのにわたしは気が付いた。一目見ただけでは満足できずに、追いかけてくる人はたくさんいる。でも、あの女はただお兄ちゃんたちに付きまとっているのではない。お兄ちゃんが、ときどき、後ろを振り返って様子を確かめているからわかる。黒い長い髪の、ちょっと小柄な女だ。人ごみに負けないようにちょこちょこと一生懸命になってついてきて、お兄ちゃんが振り返るたびに嬉しそうに杖を振り返している。あれはいったい誰なのだろう?


 このあとはサフランサマルトリアの王女)がリュオを「あなただれ? お兄ちゃんのおともだち?」と問いただし*3、問いただしてしまったことで、意識的には「味方」とか「ハーゴンを倒してくれた恩人」としか考えていなかったリュオの心を刺激してしまう藪蛇につながる。

*1:

ryuou-5dai.hatenablog.com

*2:「ロトの盾」のこと。サマルトリアの国宝だからそう呼んでいる。

*3:以前いただいたイラストあり