単行本「遠まわりする雛」米澤穂信・著についてのメモ

 この記事は、ネタバレを含みます。

「やるべきことなら手短に」

 千反田が占い研究会の部員募集ポスターを見かけ、友達が入ったと口にする場面がある。
 この友達とは十文字かほのことを指しているのだろうが、「クドリャフカの順番」では十文字が何の部活に入ったのか知らない様子なので、矛盾が生じている。千反田は記憶力がいいとされるので、忘れるとも思えない。

 また、同じく「クドリャフカの順番」時点では部員は一年生である十文字一人で上級生はいないので、このポスターを作成したのはだれかという疑問が生じる。十文字と入れ替わるような形で(文化祭までに)上級生が退部した、と考えれば筋は通るが。

 これをネタにしたSSを雨衣という方が書かれていたので紹介する。
占い研究会に十文字あり | 古典部シリーズ - 雨衣の小説シリーズ - pixiv

「心あたりのある者は」

ゲームの目的について

 この話、まず千反田が折木の推理能力を称賛し、次いで折木はそれは買いかぶりで的中したのは幸運だったに過ぎないと反論し、そこに千反田が少し譲歩して、的中をうんぬんできるだけの推論を立てれるだけでも大した能力だ、と再反論したところから始まる。

 そこで、推論する能力を試すゲームを折木が提案するのだが、面白いことに原作小説・京アニ版アニメ・「角川コミックス・エース」版の漫画でそれぞれ目的が異なっているので、整理比較してみることにする。

小説版

何か状況を一つ出してみろ。そう簡単に理屈をくっつけるなんてできないと、証明してやる

 この折木の発言を素直にとれば、推論など自分にはできないことを証明するのが目的ということになる。つまり、このゲームをやっても適当なところで分からないと投げ出せば能力の「無さ」の証明になってしまい、折木から推論を進める動機が失われてしまう。話が成り立たない。
 ただ、ゲームを始めた時点で「いろいろ思い知ってもらおうか、千反田!」と内心で嘯いており、折木が何か企んでいることが伺える。この裏の目標は明言されないが、おそらくぶっ飛んだ推論にもっていくことで、自己の評価を「適正に引き下げる」つもりなのではないかと考える。そう考えればこの話の推論がいろいろ大胆なのも納得がいく。

アニメ版

 小説版の「そう簡単に~」が「どんなことにでも、理屈をくっつけられると証明してやる」に改変されているそうだ。なるほど、これなら推論を進める動機は説明できる。話題のタネとなった「理屈と膏薬はどこにでもくっつく」ということわざそのままとも言えるが。しかしこれ、ほら吹き宣言では?

漫画版

 千反田を挑発するせりふ自体は小説版と同じである。しかし、その後に「この機会に俺の推論など当てにならないとわからせてやる」という内心の本音が描かれ、折木が推論ゲームを持ち掛けた裏の理由が分かりやすくなっている。

 実はこれと同じような修正が、「クドリャフカの順番」にもある。文化祭三日目で、折木が謎の解明を千反田の前で行いたくなかった理由についてである。

ゲーム後のオチについて

「心あたりはあるのだが」を参照してください。

「手作りチョコレート事件」

 問題のチョコがとても大きいのは、ものが食べ物だけに、食べてしまうという物体消失トリックの解法をつぶすため、であろう。