対決と、その後

 大陸の中央‐大地の奥底‐世界の中心で、二つの青きものが戦っていた。
 一方は竜、青き鱗の竜であった。獣と人の頂点に位置するものたる竜であり、雲突く巨躯を持ち鉄塊をも裂く爪を振るい岩をも溶かす炎を吐くものであった。
 そして、他方は人であった。青き鎧を纏った人であった。
 その闘いは天地を揺るがすものだった。
 大陸全土の人々は、轟く響きに天に祈りを捧げた。
 戦場に在るのは、血色の鎧の戦士たち、黄土色の衣の魔道士たち、灰色の岩巨人たち、そして、青き竜の眷族たる暗緑色と橙色の巨竜たち、いずれ劣らぬ強大なる魔物たちが二者の一挙一動を注視していた。彼らは悟っていた。人の子の戦士の剣が彼らの王を突くたび、彼らの主(あるじ)の血が流れるたび、彼らの命の緒が途切れていくことを。だが、加担しようと指の一つ爪の一つも動かすものはいなかった。それが彼らの戒律であった。

 しかし、轟音も次第に耳遠くなって行き、ついに、戦場に響いた竜の断末魔で終わった。
 激しい戦いの末、勝利したのは青き鎧の人であった。

 戦士は疲労に強張った首筋をもたげた。二者が戦うまでは広壮であった地底宮殿も、はや揺らめいて幻影へと帰ろうとしていた。周りには魔物であったものたちの遺骸が累々と積み重なっていた。
 戦士が、青き竜の幅広い胸に突き立ったままの剣に改めて手を掛けた時、遺骸の中から立ち上がる者がいた。末席の、大いなる青き竜と同じ色の鱗の竜のいた場所からだった。
 「よくもー我が祖父を!」
 だが、その生白い腕での一撃は、青い戦士の腕に握り止められた。竜にも匹敵する怪力で握り絞られて、まだ少年とも言っていい若い男はたまらず悲鳴を上げた。
 「くぅぅっ、なんだこの姿は! なぜ人間なんかの姿に! この力ない姿で人の世に生きていけるものか、殺すなら殺せ!」
 若い男に叫ぶだけ叫ばせてから、青い戦士は短く言葉を発した。
 「お前はなぜ生きている」
 「知るか! チッキショウ! 力さえ……大師…お祖父様から授かった力さえあれば……竜の姿であれば……お前なんぞ! アッ」
 不意に腕に加わった力に、若い男は言葉を途切らさせられた。
 「お前は知っているのか? その力がどこから来たのか?」
 若い男は首を左右に振った。
 「お前と、今俺が倒したお前の主と、お前の仲間たちの姿を見るがいい。力に走ったその姿……その源は魔界だ」
 若い男ががくりと首を落とす。青い戦士が腕を放したが、突っ伏したままいよいよ死んだ仲間たちに加わったかのように動こうとはしなかった。
 「その魔界の力も、いま俺が止めた。残ったのはそれ以外だ……分かるな」
 そう言葉を掛けて、青い戦士は立ち去った。地底はいよいよ闇に閉ざされようとしていた。一筋のすすり声を残して。

あとがき

白状しておきます。これ、永井豪先生の「バイオレンスジャック『ハイパーグラップル編』」のマネみたいなものです。それならそれでもっと上手く書きたいものだ……。