王の中の王

と、いうと、竜王の名乗りとして知られています。

 

よく来た ××よ。 儂が 王の中の 王 竜王だ。

 

これ自体はなかなかハッタリの利いた名乗りではあるのですが……ちょっと考えてみると、「王の中の王」とは何でしょう?
 「男の中の男」のように、とても王者の風格がある王、という意味……ではないでしょう。
 王たちの中でも飛び抜けて勢威のある大王である、という意味で名乗っているのでしょう。

 

 しかし、ここで疑問が。このように、「王の中の王」という言葉は王(と王が治めるべき領国)が複数あることを前提としたものですが、ご存じのようにDQ1の舞台はアレフガルド王国そのものであり、王さまもラダトームのラルス16世しか登場しません。
 では、どういうことか? 私が思いつくのは以下の二つです。
 一つは、アレフガルドの外にも竜王は手を伸ばしていた、ということです。DQ2に存在する諸王国のうち1勇者の開いた三国はないでしょうが、デルコンダル王国はあったと思われます。他にも2には登場しない小王国があったのかもしれません。
 この説を採れば、1の時代にもアレフガルドの外の大陸があったということになります。
 二つ目は、竜王アレフガルドの外(いわく、「どこからともなく」)からやってきたので、その土地から称号を持ってきたというものです。ただ、この説だと無理はありませんが、1勇者を始めとするアレフガルドの人々には意味不明な名乗りになったことでしょう。

 

 実はアレフガルドが、グレートブリテン(いわゆるイギリス)の王がイングランドスコットランド・アルランドの諸王国の王であるような、複数の王国の集合体であると考えることもできなくはありませんが、それでは竜王ラダトームの王と同じ称号を名乗っているだけということになり、面白くはありませんので却下します。


 

 「王の中の王」は、DQ5のラスボス・ミルドラースの名乗りでもあります。つながりは思いつきませんが。

 

 ちなみにゲームを離れると、「王の中の王」、というのは古代メソポタミアから続く伝統の称号で、「諸王の王」とも訳されます。意訳して「皇帝」とされる時もあります。また、イエス・キリストに対する称号の一つでもあります。

 


2016年5月追記

 

 普通の王より偉大な王、という称号の作り方には歴史的に見ておおむね三通りあるように思われます。

 

 

 一つ目が、王を重ねて「王の中の王」とするやり方。しかし、王国が少ない(一つかもしれない)DQ1の世界にはそぐわない言葉です。
 二つ目が、「偉大さ」を表す形容詞をつけるやり方。有名なものとしては、インドあたりのマハーラージャ(マハーが「偉大な」、「ラージャ」が「王者」)があり、日本語では「大王」となります。これならアレフガレドの人々にも分かりやすかったのではないでしょうか。

 

 そして、三つめ、まったく違う言葉が転用される例です。中国語では「皇帝」のように神話的存在(三皇五帝)の名乗りをもってきました。日本の支配者の称号が、元は朝廷の官職である征夷大将軍(将軍)になったのも転用の例でしょう。
 ローマ帝国は面白いところで、皇帝の主な三つの称号が、「最高司令官職」インペラトール(のちの世のエンペラーの起源)・初代皇帝オクタウィアヌスの家のカエサル(のちの世のカイザーやツァーリの起源)・同じくオクタウィアヌスに与えられた尊称アウグストゥス(称号としては残らなかったようだ)でした。
 このように初代皇帝個人の名前・尊称が後継者によって君主号になることはママあることで、竜王も世界征服に成功していれば、たとえその後、始皇帝秦帝国のように滅ぼされたとしても、あの世界では大帝国の支配者を表す語が「竜王」になっていてもおかしくはない、と思います。