「モーリスのいた夏」松尾由美・著

 まずモーリス・センダックの「かいじゅうたちのいるところ」へのオマージュを作ろうというのがまずあって、「かいじゅう(モーリス)」と絡む不思議さん美少女芽理沙が現れ、彼女とモーリスとに出会う年上の一般人少女信乃が配されて、ひと夏のガールミーツガールの物語を描こう、となったのだと思う。

 ただ、希死少女芽理沙と人間の死体を食う*1モーリスの特性を発揮する上で、人が死ぬ事件が必要だったからそういう事件が作中に設けられたわけで、クローズドサークルにしては人物が多過ぎではないかとか、動機や背景があっさりというかおざなりなのはそういう面があるのではないか。

 そして、最後、モーリスはいなくなり、芽理沙はからだに大きな痛みを受け、母を取り戻し、そして海外へ去る。これは誕生のやり直しではないかと思う。けっして連絡が取れないわけではないのに、関係が途切れてしまったことにしたこととか、構成はあんまりうまくないと思う。そのあたり、「わたしのリミット」は「モーリスのいた夏」の反省を踏まえて上手く組んだものだと思う。

 

*1:元の絵本では「おれたちは たべちゃいたいほど おまえ(人間の少年)がすきなんだ」というせりふはあれど、かいぶつたちが何を食物としていたかの表現はない。「禁じられた遊び」ばりに美少女と死を結びつける発想からモーリスの性質・能力は決められたのか?