サスケの結婚式

 ロトの子孫たちが大神官ハーゴンを倒し邪神シドーを滅ぼしてより数年、世界はその傷を癒しつつあった。
 そのころであった、サマルトリアの王子サスケが結婚するという知らせが広まったのは。その知らせは復興の表れとして大方の人には喜びとともに迎えられたのであるが……。

 

 サスケの冒険の仲間であったローレシアの若き王・ロウガは、サマルトリア城に着くと、挨拶もおざなりにしてもう一人の冒険の仲間・ムーンブルクのムラサキ王女(今は王位代行としてムーンブルクの再建にあたっている)の姿を探し求めた。
 談笑していたムラサキも、ロウガの姿を認めると猫かぶりを解いて仏頂面になった。
 「おいおいっ、ムラサキ聞いた?」
 「聞いたって……サスケの結婚相手のこと? まだ顔は合わせてないけど、アレフガルドの大商人のお嬢様だって話じゃないの」
 「どうしてっ」分かっているなら話は早いとばかり、ロウガは怒りのセリフを吐いた。
 「どうして……って、リュオのこと?」 ムラサキが冒険を大きく手助けしてくれた竜王のひ孫の名前を挙げると、ロウガが我が意を得たとばかりに大きくかぶりを振った。
 「そうだよっ! あいつ、あんなにサスケのこと好きだったのに! サスケだって、いつもひ孫のこと気にかけてたじゃないか」
 「あんたね」ムラサキが、聞き分けのない子を諭すように言った。「仮にも(いや実際「仮」付きかもしれないけど)王様でしょ? サスケはあれでも一国を背負う立場の人なのよ? 王族でも貴族でもない、どこの馬の骨ともしれない娘が妃になれば混乱の元よ」
 「あいつだって、竜『王』のひ孫じゃないか」
 「声を大きくしないで! そんなの広まったら大騒ぎになるでしょ! ……怪物の子孫だなんて、取柄にも何にもならないわよ」
 「う……」
 ロウガが黙ってムラサキの目を見た。自分たち二人の戦闘力ならば、この式をおじゃんにできる、ロウがの目はそう訴えかけていたが、ムラサキは無言で目をそらした。
 「皆様、お時間です。礼拝堂の方へお移りください」
 式部官の知らせに、二人は渋々席を移した。

 

 結婚式が始まった。
 まず、新郎のサスケが周りに屈託なく笑いかけながら通路を通り過ぎていくのを、ロウガとムラサキは複雑な表情で見送った。
 次に、新婦が入場してきた。紫をあしらった白いウェディングドレスに厚いヴェールを被っているため、容貌は髪が黒いことくらいしかわからない。
 彼女も新郎の待つ祭壇に向かって歩き出したが、ヴェールやドレスの長い裾がひらひらと揺れているのは、デザインのためだけとはどうも言い難かった。緊張しているのか、足元がどうにも危うっかしい。観衆の皆が案じたとおり、通路の最後の段に上るところで彼女は思いっきりけつまづいた。彼女の一挙手一投足を見守っていたサスケが飛び下りて支えたことで不様に倒れる事だけはなかったものの、ヴェールが一瞬まくれ上がってうるんだ瞳と白い顔が覗いた。
 「あっ」
 「えっ」
 ロウガとムラサキは同時に驚きの声をあげ、たがいに顔を見合わせた。今のは、確かにリュオの顔だった。
 ははあ、やるじゃないの。先に理解したのはムラサキだった。体裁を整えるためと……あとは行儀見習いのためだろう。交易で昵懇になった商人のところに、リュオを養女にさせたというわけね。そしてまだ不思議そうな顔をしている年下のいとこに、どう説明してやろうかと考えた。

 

    後書き

 バレンタインの記事でコメントしているうちに思いついたもの。
 ウソは言ってない、はず。私、時代小説が好きなんだ。

 

    追記('10/3/18)

 どうもももこさんにはご心配をおかけしたようで、下のは「こっちで(幸せに)してやれ」と描かれた花嫁姿のリュオさん。
イメージ 1

 デザインについては、ヴェールが分厚いのは昔風なのと話の都合で、あとは紫の小さい花(藤がいいかと思ってた)かリボンでも散らして、ぐらいしか私は考えてなかったので、違うもなにもない。清純な感じでいいデザインだと思う。首のリボンもグー。
 それよりも気になるのがこの表情、幸せを通り越してポヤーンとしてしまったのか?
イラストレーター・ももこさんからの解説 2010/3/18

全然実感が湧かなくて夢か何かだと思っている表情ww
この後サスケと会って「これは夢じゃろ?」とか泣きながら訊くと思いますww

しかし今回完全にやられましたww
今日は一日目尻が下がって口の端が上がっていましたよ~~~^^