四訪竜王城(その4)

 重い玉座を元の位置に戻し縦穴に蓋がされて、ロトの子孫と竜王の子孫の4人は、夏の刺すような日差しの中を歩き続けた旅人がようやく身を憩う日陰を得た時のように、肩を落とし深く息を吐いた。
 「これ、返すわ」
 リュオ・サスケ・ロウガの三人が玉座を動かすのを見守っていたムラサキが、そのあいだ預かっていたルビスの守りをサスケに渡そうとした。
 「いえ、それは君が持っていてください」
 「え?」
 思わず、ムラサキは、「守り」を胸に抱えた。「守り」の生気が感じ取れる。かつて5つの紋章に触れたときにはなかったものだった。その時は、言わば、仮死状態だったというわけだろうか、「守り」は確かに生きていた。小動物を抱きしめると血液が廻る鼓動が感じられるように、「守り」の中で六大元素が廻っているのが魔法使いであるムラサキにははっきりと感じ取れた。リュオの言った通り、それはまさしく小さな世界だった。
 そう、それは世界の写し身だった。「守り」を抱いていると、精霊ルビスが司る命の循環の陰に暗いものが根を伸ばしているのが感じ取れた。大神官ハーゴンとその悪意の産物である怪物たちの軍団だった。
 「こんなことって……」ムラサキはひとり呟いた。ムラサキにとり、この旅は復讐のためだった。復興を口にしていても、本意はムーンブルクの平穏な毎日と人々の命を奪ったハーゴンに対する復讐だった。「守り」を得て、ハーゴンを倒したいという気持ちはますます高まったが、それは血の色の復讐に裏打ちされたものではなかった。この世界を救いたい、という使命感に基づいたものだった。
 サスケは、これを計算していたと言うのだろうか? 歓迎しようと廊下の先を行くリュオ、親ガモについていく子ガモにも似たロウガ、ムラサキは直前を行くサスケの背を見る。視線に気づいたサスケがちらっと振り返る。サスケはムラサキの表情に一瞬眉を吊り上げたあと、いつもの人を和ませる笑みを浮かべた。乗せられないわよ、ムラサキはことさら頬を膨らませムスリとした顔を作ってみせた。